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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)9090号 判決 1964年6月29日

理由

一、二、省略

三、そこで、被告等の抗弁(二)から判断する。

前記根抵当権設定契約当時、被告立石良助が被告アツプストーンラバーの代表取締役であつたことは当事者間に争がない。

原告は被告アツプストーンラバーが昭和三五年一〇月中旬頃本件原根抵当権設定契約を締結するに際し、社員総会を開催し、右根抵当権設定につき認許の決議をしている旨主張するけれども右事実を認めるに足る証拠はない。

又原告は被告アツプストーンラバーの社員三名が右根抵当権設定を承認していた旨、若くは追認があつた旨の主張をする。なるほど被告アツプストーンラバー代表者小田盛一本人の供述によれば、被告アツプストーンラバーの社員は立石良助、小田盛一、酒井忠知の三名であつて、立石が持分四〇〇口、額面四〇万円、小田が持分五〇口、額面五万円、酒井が持分五〇口、額面五万円であつたこと、前記根抵当権設定契約当時被告アツプストーンラバーの代表取締役立石良助が被告新興護謨の代表取締役として、右根抵当権設定の取引をするにつき、小田盛一もこれに関与し、右根抵当権の設定契約を異議なく締結していることはこれを認めることができる。有限会社の代表取締役が第三者のために会社と取引を為す場合にはその重要な事実を開示して社員総会の認許を要するとし、その認許は特別決議の方法によると規定せられていることに徴すれば、単に前記認定の如く、社員が取締役として取引に関与して該取引を認めていたとか、その社員の出資口数の額面合計が殆ど会社の資本と変らないということを以ては社員総会の認許があつたことと同一視しえないものというべきであつて、社員総会の認許はなかつたものと認めるを相当とする。もとより社員総会の認許は追認でも構わないものであるけれども右追認の事実はこれを認めるに足る証拠がない。

原告は社員総会の認許のない取引も有効であり、当該取引にあたつた取締役の会社に対する損害賠償の責任を生ずるにすぎない旨主張するけれども、当裁判所はかかる会社と取引した第三者は保護する必要はないものと解するから、右主張もこれを採ることをえない。

そうすると、被告アツプストーンラバーと被告新興護謨との間になされた本件根抵当権設定契約は被告アツプストーンラバーの代表取締役立石良助が社員総会の認許を受けないでしたものであつて、社員総会の追認もなかつたものであるから右取引は無効というべきである。従つて被告両会社間の右原根抵当権設定契約が無効である以上、右原根抵当権につき設定した原告の転根抵当権も効力を生ずるに由なく…。

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